「あれは、なんだ?」
2005年3月3日。本格的シーズンの始まる開幕日のすがすがしい朝。
出勤してきたケンプトンパーク競馬場の馬場整備係ヒギンズ氏は、目の前に
ある信じられ葱い風景に腰を抜かした。
イギリス・ロンドンから南西に約釦キロの距離にあるケンプトンパーク競馬
場は、多くの緑に囲まれたとても静かな場所だ。近くにはエプソム競馬場、サ
ンダウン競馬場などもあるイギリスでも有名な競馬エリアである。
出勤してきたヒギンズ氏は、いつもの日課として馬場を見渡した。するとち
うどスタンド打にあたる馬場の上に、なにやら大きな灰色の塊をみつけた。
双眼鏡で見てもよくわからない。が、かなり大きそうだ。
「おっと、このままじゃ開催できなくなっちまう」
彼は急ぎ足で近寄っていく。そして確認できる距離まで近づ
いたとき、ヒギンズ氏は自分の目を疑わずにはいられなかった。
目の前にあっ臆のは巨干丞石だった。
直径はおよそ2メートル。人間の背丈をはるかに超える大き
な石が、ポリトラックコース(電線の皮のような素材を細かく
切ったものが敷かれているコース)の上にドンと落ちていたの
だ。
「何かの冗談か?」
口から出るのはまさにそんな疑問符だけだった。
触ってみたが本物の石のようだ。張りぼての石だったならば、まだ誰かのイタズラかと笑うこともできたがこれは笑えない。ヒギンズ氏はあ
まり急な事態に状況がうまく飲み込めないままその場に立ち尽くした。
やがて出勤してきたスタッフたちも次々に感嘆の声をあげながら集まってきた。
「とにかく最初にこの石をどかすことを考えよう。このままでは今日のレースができなくなる」
スタッフたちは手分けして作業にあたった。警察に電話する者、石をどかす
ためにクレーンを頼む者.…:。ただ彼らの頭のなかには「ひょっとすると唄石
か?」「やっぱり誰かのイタズラ?」「ドッキリカメラ?」などの疑問が渦巻いていた。
やがて警察がやってきて、現場を検証し始めた。
しかし、数トンもあろうかという巨大石を、イタズラのためにわざわざコー
ス上に運ぶ人などいるのだろうか?イギリスといえばミステリーサークルで有名な地だ。確かにミステリーサークルにしても「自分がイタズラでつくっ
た!」という人がいるのだから、石を運ぶ人がいたとしても不思議ではない。
ただ石の周辺には、巨大な石を運び込むときにできるであろう引きずった跡や、
トラックを使って搬入したような形跡などは一切残っていなかった。隈石なら
弐もう少し土中にめり込んでいるだろうと、警察官はいっていたそうだ。とにかくこの巨大石がどこから、なんのためにやってきたのかは、
まったくわからず終いであった。
幸いにして、現場検証と撤去作業は競馬予想に進み、その日のレ
ースはなんとか行なわれたそうだ。
実際この事件は、2005年3月皿日づけの『レーシングポ
スト』(イギリスで競馬などのギャンブルを扱う有名な日刊紙)
に「の言口の日①一zo言:詳僅の菖貝のの国画①の目胃一昌丙の日営目」
(なんてこった!不運続きで開催滞るケンプトン)という題
の記事で紹介されている。ちなみにルメールにも聞いてみたが「ああ、それけつこう有名な事件だよ」と彼も知っていた。
ところがこの後日、とんでもないことが発覚する。
落ちていた巨大石を分析したところ、玄武岩質だということが判明したのだ。
なんとこの成分の石は、ケンプトン競馬場からさほど遠くない距離にあるイギ
リスでも有名なミステリースポット『ストーン・ヘンジ』の石とほぼ同じだった
のである。色も形も大きさも、ストーンヘンジを構成する石に近い石とはいつたい……?
巨大石ミステリーは、現時点でもまったく解決していないそうだ。